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プロローグ -- 本編 12 ・ 3
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         番外編 1
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「リルグさん……?いえ、存じ上げませんね。
黒髪なら目立つでしょうし、いるのなら私の耳にも入ると思うんですが」

どうだろう、惚けているように見えなくもない。
「どう思う?」と、隣のミルミアに視線を向けると思案顔。いつも通りとも言えなくもない。

「ふぅん。最近入ってきた患者の中にはいなかったと?」

「ええ、少なくとも私の知る範囲では」

他にも色々と聞いてみたが、成果は芳しくなかった。長話で疲れただけ。

「どう思う?」彼女に聞いてみた。

「彼にどの程度の知識権限があるかによりますね。副所長と言ってましたが、
所長以外にはほとんど権限を持たせていない可能性もあります」

「権限の一点集中ね。ウィーがそんな効率の悪いことをするかなぁ」

「どの情報に制限を掛けるかにもよるでしょう。恐らくこの件だけではないかと」

「でも、診療所に彼の存在を隠す必要はあるのかな。
彼にはそこまで得があるような人材でもないでしょう。
軍事バランスを覆せるような魔具でも持ってれば話は別だろうけどさ」

「私はまだ彼に会ったことがないのでわかりませんが、
隠している以上は何かしら裏があるということでしょう。
ウィーか、或いはリドに直接聞いた方が早いでしょうね」

「そうね、それじゃ二人を探しましょうか。……って、まだ戻らなくても大丈夫なの?」

探し始めて既に1時間以上経過している。
休憩にしては長すぎるので、心配になって聞いてみた。
心配なのは、彼女ではなくて受付の方なのは言うまでもない。

「……ぁ」……っておい。

「戻ります。あとは宜しくお願いします」
足早で去りながらだったので、最後の方は聞き取れなかった。

何をしているのか、まったく。

そう、仕事を放りだして人探しをしている自分の事を棚上げして呟いてみた。

「ほんと、何やってんだろうな、私」

ユグドラシルにやってきてからもう何年経つのだろうか。
私があいつに拾われてここにやってきたのも、まだ夏の暖かさを引きずって、
時折気持ち良い風の吹く、今日みたいな秋の日だった。
あの時私はまだ歳が二桁にもいっていない本当の意味での子どもだった。

周りの全てが怖くって、

部屋に閉じこもって、

泣いて、

泣いて、

泣いて。

死ねば楽になれるのかと、何度も自問した。
心配して何度も来てくれたウィーにも同じ事を聞いたこともあった。
あの時彼女は私を何も言わずに抱きしめてくれたことは覚えてる。
多分、慰めの言葉や叱られていたら今の私はここにはいなかったと思う。
あのリドだって私の元に何度も心配して来てくれていた。あれは本当に嬉しかった。
そんなこと、絶対本人には言わないけど。嬉しかったんだ。
でも、今はわかるのに、あの時はそういったみんなの優しさが信じられなくて。

それすら跳ね除けて、

意地を張って、

また、泣いて。

そして、涙も枯れ果てたんじゃないかと思う頃、
私はいつも同じ場所に向かってた。

見晴らしの良い、

いつも心地よい風吹く、

あの、丘に。                         →次へ